研究概要 |
光を強散乱する光学媒質に光反応材料を混ぜ込んだ系において起きる光メモリー効果は、媒質中で多重散乱された単色光が作る干渉パターンが光反応によって記録されるために起きるもので、波長・波面・偏光状態という、単色光の持つすべての性質が記録される顕著な性質を持つ。このメモリー効果を応用する際の問題点は、多数の記録を行なうとこのような全体的な蛍光強度の減少が起きることである。ところが、通常の永続的ホールバーニングも同時に起きる場合は、多重散乱光の干渉による光記録効果との相乗効果によって、多重度が増すことが期待される。共沈法によって作成したEu^<3+>添加微粒子を試料として用いて、永続的ホールバーニングと多重散乱光の干渉による光記録効果との相乗効果の検証を試みた。試料は、Y_2O_3,Eu_2O_3の硝酸溶液に尿素を加えて沈殿させたのち、焼成して作成した。得られた試料は、粒径250〜350nmの球形で、可視光の散乱体として最適の粒径を持つ。この試料粉末中での光の平均自由行程は、コヒーレント後方散乱の測定から、約70μmと見積もられた。クライオスタットを使用した低温での実験から、この試料では120K以下の温度で永続的ホールバーニングが観測された。この試料で多重散乱光の干渉による光記録効果も起きているかどうかは、照射光に試料の角度をわずかに変化させ、照射光の入射角を掃引したときにホールが観測されるかどうかで確かめられる。掃引に、精度の高いファインステージを使用した。その結果、角度掃引による測定には、ホールが観測された。一方、波長掃引によるホールスペクトルには、永続的ホールバーニングによる広いホールの底に、干渉による狭いホールがあくと予想される。実験の結果、2種類のホールは区別できていないが、これは両者のホール幅が近いためと考えられる。
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