本年度は、これまでに確立した一分子FRET法を用いた構造変化検出法を応用して、キネシンの協調的な二足歩行運動の仕組みの解明をさらに推し進めた。具体的には、キネシンの2つの頭部をつなぐネックリンカー部位に着目し、この部位が二足歩行運動にどのような役割を担っているのかを明らかにした。まずネックリンカーを遺伝子工学的に伸ばすことにより2つの頭部間にかかる負荷を軽減させたところ、運動速度が低下しATP加水分解反応を効率的にステップ運動に結びつけることができなくなった。また野生型と異なり浮いた頭部がATP結合前にすぐに微小管に再結合してしまうこと、またこの状態では両方のネックリンカーが後ろを向いていることが示された。これらの結果は、ネックリンカーにかかる負荷によってネックリンカーの向きが制御されており、これが2つの頭部の前後位置を認識する上で重要であることを示唆するものである。次に、ATPを加水分解できずネックリンカーの構造変化に欠陥がある変異体(R203K)と野生型のへテロダイマーを作成し、一分子FRET法を用いて運動中の構造変化を観察した。このヘテロダイマーはゆっくりと連続的に歩行し、また変異体頭部が後ろであるような両足結合状態を長く取った。この結果は、従来考えられていたネックリンカーのドッキング(前方を向いた構造)が浮いた頭部を前に一歩進めるのに必須であるというモデルを否定するものである。以上の結果をもとに我々は、浮いた頭部が微小管に結合するためにはネックリンカーが後ろを向く必要があり、これにより浮いた頭部が選択的に前方に着地して二足歩行運動が可能になるというモデルを提案した。
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