研究概要 |
本年度は、ダイニンが微小管上を長距離連続歩行する機構を調べるため、ダイニンモータードメインのヘテロダイマーを構築した.このため、ラパマイシン存在下で安定なヘテロダイマーを形成するFKBPとFRBとともに、やはり安定なヘテロダイマーを形成するMBP (maltose-binding protein)アンキリンリピートタンパク質(off7)を用いることにした.FKBPとoff7を遺伝子上でつなぎ、またFRBとMBPを遺伝子上でつないでヘテロダイマータグ1、ヘテロダイマータグ2とした.ダイニンモータードメインの上流にヘテロダイマータグ1あるいはヘテロダイマータグ2を遺伝子上でつなぎ、これらを細胞性粘菌で発現すると各々安定な単量体モータードメインが得られた。この2種類のモータードメインを混合し、ラバマイシンを加えると、安定なダイマーが得られた.このダイマー1分子は微小管上をGSTでホモダイマー化した分子と同様に長距離連続歩行できた.こうして構築したヘテロダイマー系は、本研究において細胞内でのモータータンパク質の挙動を詳細に調べるのに役立つ極めて重要なツールとなる.たとえば、モータードメインの片側にATP結合ができなくなるような変異を入れ、もう一方は野生型モータードメインとしてヘテロダイマーを作ると、ダイニンでは野生型ダイマーとほぼ同じような長距離歩行をすることがわかった.この実験結果は、ダイニンというモータータンパク質の細胞内での物質輸送機構の理解にあたって重要なカギとなる.さらに、こうしたモータータンパク質の作動機構研究のツールとしてダイニンモータードメイン中の反応性の高いCys残基をすべて他のアミノ酸残基に置き換えたCyslightダイニンの構築をおこなった.このためダイニンモータードメイン中の22残基のCys中12残基をAla, Ile, Valなどに置換した.このCyslightダイニンでは、微小管で活性化されるATPase活性は野生型の半分ほど、Cyslightダイニン上での微小管の滑り運動速度も野生型の半分ほどで、以後の研究に用いるには十分なモーター活性を維持していた.このCyslightダイニンとマレイミド基をもった蛍光色素を反応させるとほとんど蛍光標識されないが、部位特異的に反応性の高いCys残基を導入すると、特異的にその部分が蛍光標識された.こうして巨大なダイニンモータードメインの特定の位置にほぼ定量的に蛍光色素を導入する系を立ち上げることができた.導入した蛍光色素はその部位での構造変化、あるはリガンド結合を検出するための鋭敏なプローブとして用いることができる.たとえば、ダイニンモータードメインのATPaseコアにある2番目のAAAモジュールに蛍光色素を導入すると、ヌクレオチド(ADPあるいはATP)がこのAAAモジュールに結合すると蛍光変化を起こす.ヘデロダイマータグとCyslightダイニシというツールの導入は、ダイニンというモータータンパク質研究の幅が大きく広がることを意味し、今後のモータータンパク質による細胞内情報制御研究に大きく役立つことになる.
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