本研究においては、様々な生理機能の制御に役立っているカルシウムシグナリングを中心としたナノシステムについて解析し、どのように細胞内のカルシウムの時空間的特長が解釈され下流の分子群を制御するのかについて明らかにすることを目的としている。平成18年度は、1.中枢神経の細胞内カルシウムシグナリング機構のひとつであるシナプスの伝達物質放出機構に加えて、2.細胞間コミュニケーションにおけるカルシウムシグナリングの役割について研究を行なった。1.伝達物質放出機構については、伝達物質そのものの可視化の実現が重要であると考え、中枢神経で主要な神経伝達物質であるグルタミン酸の可視化を試みた。グルタミン酸可視化プローブの作成に当たり、グルタミン酸受容体のサブユニットであるGluR2の細胞外ドメインを利用した。このドメイン内のアミノ酸をシステインに置換した変異体をリコンビナント蛋白質として大腸菌内で発現・精製後、蛍光性物質であるオレゴングリーンマレイミドでラベルした。この蛍光ラベル体は、グルタミン酸結合によって蛍光強度の変化を呈し、グルタミン酸可視化プローブとして利用可能であることが分かった。2.細胞間コミュニケーションにおけるカルシウムシグナリングの役割については、細胞間の接触の際に一過性のカルシウム濃度上昇が見られること、このカルシウム濃度上昇がチロシンリン酸化酵素であるPYK2を介して細胞間のrepulsionを誘発することが明らかとなった。
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