本研究においては、様々な生理機能の制御に役立っているカルシウムシグナリングを中心としたナノシステムについて解析し、どのように細胞内のカルシウムの時空間的特長が解釈され下流の分子群を制御するのかについて明らかにすることを目的としている。この目的のため、平成19年度においては引き続き、カルシウムシグナリングのイメージング法と制御法の開発、有効なノックダウン法の確立など技術開発研究を推進しつつ、カルシウムシグナリングについて細胞レベルの機能解明を行った。特筆すべき成果としては、アストロサイトのカルシウムシグナリングと神経突起伸張の制御に関する結果が挙げられる。アストロサイトは神経細胞とともに中枢神経系を構成する重要な細胞であり、神経細胞機能の制御を行っていることが示唆されているが、その詳細には不明な点が多い。このアストロサイトでは、カルシウム振動やカルシウム波といった複雑なカルシウム動態が観測されることが知られているが、その役割は不明であった。アストロサイトにIP3の分解酵素であるIP3 5-phosphataseを発現させ、カルシウムシグナリングを人工的に止めたところ、アストロサイトのカルシウム振動が停止するとともに、共培養した神経の突起伸張が阻害された。カルシウム振動が抑制されたアストロサイトと抑制されていないアストロサイトが混在化した状態で調べると神経突起伸張の抑制はカルシウム振動が抑制されたアストロサイト上のみでみられた。このことから、神経突起伸張を制御する因子として、細胞膜上に発現している分子の関与が示唆された。さらに、この分子実体を探索し、Nカドヘリンであることが示唆された。以上の結果は、アストロサイトと神経細胞の機能的連関の理解に重要な知見を与えるものである。
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