遺伝子発現における転写やスプライシングなどの連携機構において重要な機能をもつ核内構造体である核スペックルの形成阻害天然化合物を、前年度に引き続き、放線菌培養上清から精製し、構造解析を行った。2016種類の放線菌培養上清をスクリーニングして得られた核スペックルの肥大化もしくは分散化を引き起こす2種類の培養上清サンプル1870-14aと1891-1aを、酢酸エチルで抽出後、HPLCで分画した。核分画の活性を測定し、それぞれの上清サンプルから最終的に2種類の天然化合物の構造を特定した。興味深いことに、それらの化合物は、核スペックルの肥大化と分散化という全く逆の効果を引き起こす化合物であるが、両者とも構造が類似したアデノシンアナログであることが判明した。Clk遺伝子における選択的スプライシングへの影響をHeLa細胞を用いて解析したところ、核スペックルの肥大化をもたらす1870-14a化合物は、Clk遺伝子の第4エキソンの選択的スプライシング(スキッピング)を阻害し、核スペックルの分散化を引き起こす1891-1a化合物は、逆にエキソンスキッピング反応を促進した。また、1870-14a化合物はスプライシング因子SAP155のリン酸化に関与するDYRkキナーゼの活性を阻害したが'、1891-1a化合物は有意な阻害効果を示さなかった。更に、遺伝子の転写活性をパルス標識によって解析したところ、1870-14a化合物は転写を強く阻害することが示された。本研究で同定したこれら化合物は、今後、核スペックルの機能と構造解析を行う上で、バイオロジカルプローブとして大変有用である。
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