研究概要 |
植物の環境適応能力は植物細胞内のオルガネラの機能分化能力によって支えられている.小胞体(ER)は動・植物細胞で最大の表面積を持ち,タンパク質合成の場として広く知られている.申請者らの最近の研究から,植物細胞は成長の段階や環境変化に応じて特殊化した機能を持つオルガネラを小胞体から形成する能力をもつことが分かってきた(Plan Physiol., 2004).本申請課題では,申請者らが見出した新規なオルガネラに焦点を当て,これらのオルガネラの分化誘導機構を分子レベルで明らかにし,傷害や環境に応じた植物のオルガネラの誘導機構の解明を目指す. 本研究で注目するオルガネラはERボディと命名した巨大な紡錘形のオルガネラである.ERボディはアブラナ科植物の幼植物体(芽生え)全身の表皮に存在するが,植物体の成熟葉には存在しないという特徴を持つ.しかし,成熟葉に虫害や人為的な傷害を与えるとERボディが誘導されてくる.ERボディは外敵や環境変化に対処するために植物体が備えている全く新しい生体防御機構の一つとみなすことができる. 本年度の成果は下記の通りである. 1)ERボディは周辺にリボソームが付着した大きなオルガネラで,小胞体局在型GFPを発現させたシロイヌナズナ幼植物体では,独特の蛍光像として可視化できる.この形質転換体を変異原処理しGFP蛍光パターンの変化を指標として,ERボディの形成や形態に異常を示す変異体を複数選抜した.ERボディが凝集するkatamariと命名した変異体の一つkatamari1(kam1)の原因遺伝子は,ゴルジ体の膜タンパク質でアクチンと相互作用していることが分かった(Plant Cell, in press). 2)ERボディの形成不全変異体nai1の原因遺伝子は,転写制御因子と考えられた(Plant Cell, 2004).この変異体と野生型の幼植物体からmRNAを単離し,DNAアレイ解析を行った.その結果,Nai1は傷害に関わる様々な遺伝子の発現を制御していることが分かった. 3)ERボディに集積しているβ-glucosidase(PYK10)のタンパク質化学的性質を調べた.その結果,PYK10分子は健全な組織の中では,不活性な分子として存在し,傷害を受けて初めて,活性型のアグリゲートを形成することが分かった.このアグリゲート形成には,PYK10-binding proteinと命名したjacalin domainをもつタンパク質が機能していることが分かった(論文投稿中).
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