研究概要 |
本研究では,内的・外的要因による小胞体由来オルガネラの分化誘導の機構の解明を目指した.特に,アブラナ科を含むフウチョウソウ目に傷害により小胞体から派生するオルガネラ(ER ボディと命名した)に焦点を当て,傷害や環境に応じたオルガネラの分化誘導とその生理学的意義を追究した.小胞体の形態不全を示すer morphology変異体ermo1とermo2 (Nakano et al., Plant Cell, 2009)を単離し,それぞれの原因遺伝子を同定して,ERボディの誘導や小胞体の機能解析を行なった.また,ERボディの形成不全を示す変異体nai2を単離し,その原因遺伝子の産物NAI2がERボディに局在し,de novo合成されたPYK10を集合させることによりERボディを形成するという機構がみえてきた(Yamada et al., Plant Signal Behav, 2009).蛍光イメージから変異体を取得する手法は,ERボディの形成や形態維持機構に関わる因子の同定に大いに役立ったが,微妙な形態変化を示す変異体を見逃す危険性がある.そこで,ERボディの形状や密度分布を自動的に定量化にできる解析システムを構築した(Nagano et al., Plant Cell Physiol., 2010).このシステムを利用して,ERボディ長径が大きくなる変異体long er body (leb1)の解析を行なった.leb1変異体では,ERボディの主要成分PYK10のcysteine-29がtyrosineに変異していた.以上の結果より,NAI1転写因子の制御下で,小胞体内で合成される PYK10とそれを凝集させるNAI2の働きで,ERボディが形成されることが明らかになってきた.また,病害虫による食害を受けた組織では,細胞が破壊されることにより,ERボディ内に蓄積されていたβ-glucosidase PYK10 がJAL1の作用により活性化し,配糖体を基質として,病害虫に対する忌避物質を生産するという新しい生体防御系の存在が見えてきた.
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