研究概要 |
細胞内低分子環境は、無機イオンや代謝物質の濃度・分布として、細胞内で生じるあらゆる生理機能の基盤的要素である。植物は、オルガネラや細胞の機能や形態を様々に分化させることで、外部環境の変化に柔軟に適応しているが、この環境適応能の理解において、細胞内低分子環境が外部環境の変化に応じてどのように維持されているかを知ることは基本的に重要である。本研究では、この細胞内環境の維持に働くオルガネラの内、特に液胞および液胞小胞に注目する。塩ストレス・栄養塩ストレスなどの環境変化に対して、液胞・液胞小胞系における低分子輸送機構がどのように分化し、どのように制御されているかを明らかにしていくことで、植物細胞の環境適応能を支える細胞質低分子環境制御の分子機構の全体像を描き出すことを目指す。本年は以下の3つの項目を中心に研究を進めた。 ・高塩環境下においてSNAREタンパク質のイオン処理機構への関与 高塩処理時にNa^+を蓄積する膜小胞が出現し、それが中心液胞へ融合するという、低分子イオン輸送に関わる小胞輸送系の存在をシロイヌナズナ根端で確認した。高塩処理時に液胞膜SNAREタンパク質の一種であるAtVam3の発現量が増えること、AtVam3のノックアウト変異体は、地上部での塩蓄積量が減少することで、一時的に野生株より耐塩性が上がることから、植物体全体の塩処理に液胞膜SNAREタンパク質が影響を与える可能性が示唆された。 ・液胞膜機能未知タンパク質の膜輸送活性測定系の確立 シロイヌナズナ培養細胞からインタクト液胞を純化し、複数の機能未同定膜タンパク質を見出した。プロモーター部分にリン酸応答配列を持つ遺伝子を、シロイヌナズナ培養細胞、タバコBY-2培養細胞に導入し細胞や液胞のイオン輸送能を検討した。 ・カルシウムおよび亜鉛集積と液胞ダイナミズムの解明 細胞質Ca^<2+>の維持に働く液胞膜Ca^<2+>/H^+交換輸送体に着目し,その機能解明を目指した。イネのCa^<2+>/H^+交換輸送体各分子種は発現組織ならびに金属イオン選択性に特徴のあることを明らかにした。また、液胞へのZn^<2+>集積機能を担う亜鉛輸送体AtMTP1の機能解析を行った。
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