本研究ではプラスチドに関する以下の2点、すなわち(1)葉緑体の維持される分子機構と、(2)生殖過程におけるプラスチドDNA消失の遺伝的制御機構に着目し、それらをシロイヌナズナなどのモデル植物を用いて分子遺伝学的に明らかにする研究を行った。 (1)斑入り変異var2のサプレッサーsv2.52の単離と同定 我々が解析を進めている斑入り突然変異var2は、チラコイド膜のタンパク質分解に関わる主要なATP依存プロテアーゼFtsHの1つ(FtsH2)が欠損している。本研究ではvar2の斑入りを回復するサプレッサー系統を選抜し、その1つsv2.52について遺伝子を単離した。その結果、SV2.52遺伝子は葉緑体局在の翻訳開始因子IF2をコードすることが明らかとなり、sv2.52に生じた変異により葉緑体タンパク質合成が遅延することが明らかとなった。葉緑体においては、タンパク質合成とFtsHによる分解のバランスが重要であり、その不均等の結果が斑入りと関係することが考えられた。 (2)花粉形成時におけるオルガネラおよびオルガネラDNAの挙動と変異体のスクリーニング シロイヌナズナの成熟花粉を押しつぶしDAPI染色でオルガネラDNAを観察する手法により、成熟花粉においてオルガネラDNAが残存して存在する変異体の探索を昨年度から継続して進めている。通常、野生型では成熟花粉の細胞質には殆どDAPI染色が見られないが、栄養細胞の細胞質にDAPI染色が観察される変異体が得られており、花粉形成におけるプラスチドの挙動を探る材料として非常に興味深い。今年度はそれらの中でオルガネラDNAが強く染色される変異体91および459と、DNAの染色は不均一だが葉に斑入りを示す変異体1411について細胞生物学的な解析を進めた。
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