研究概要 |
哺乳動物の性決定は、Y染色体上の精巣決定遺伝子Sryの有無により支配されており、マウスでは、胎子の性分化期の生殖原基において、Sryが、一過性(10-12時間)に中央部から前後端に波状に発現することにより、未分化性腺を卵巣から精巣に分化誘導する。しかし、現在、Sryが直接どの精巣/卵巣遺伝子を制御しているのか、Sry自体の機能については今だ不明である。このSry研究の立ち後れの大きな原因は、性腺でのSryの発現が非常に短時間、低発現であること、Sryから精巣誘導可能な細胞レベルの実験系が無いことなどが挙げられ、新たなSryの機能解析が可能となるモデル動物の樹立が必要である。我々は、新たなSry機能解析用のモデル動物として、マウスHsp70.3プロモーターにSry遺伝子を連結した発現ベクター(HSP-Sry)を導入したトランスジェニック(Tg)マウスの作出を行なった。その結果、発現ベクター全領域を含む4種類のTgマウスを得る事に成功し、そのうち既に3ライン(#35,40,46)は、通常飼育下でXX精巣の性転換を示し、残りの1ライン(#44)は、XX卵巣を示した。これらのラインのSryの発現解析を行った結果、#40(XX精巣)ラインは、transgene由来のSryの発現が生殖原基においてステージ/領域比特異的に恒常的に発現する性転換ラインであり、体腔上皮を含めた生殖腺領域全体にSryを異所的に、かつ、発生初期から恒常的に発現していることが明らかとなった。そこで、このラインを用いて、Sox9発現誘導に対するSryの強制発現による影響について解析を行った結果、Sry単独では、未分化性腺におけるSox9の発現時期、部位を異所的に誘導することが出来ないことが判明し、Sox9の時間/空間的な発現制御にはSry以外の別のfactorが重要であることが示唆された。
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