哺乳動物の性決定は、Y染色体上の精巣決定遺伝子Sryの有無により支配されている。マウスでは、性分化期の胎子生殖原基において、Sryが一過性(胎齢11.0〜12.0日(dpc))に中央部から前後端に波状に発現することにより、未分化性腺を卵巣から精巣に誘導する。しかし、Sryが直接どの精巣/卵巣遺伝子を制御しているのか、Sryの機能、Sry直下の遺伝子ネットワークについては現在のところ不明である。我々は、本研究課題により、新たにSry機能解析用のモデル動物の樹立を目的とし、H16〜18年度においてマウスHsp70プロモーターにSryを連結した発現ベクターを用いて、Sry発現様式を改変したトランスジェニック(Tg)マウスの樹立を行った。その結果、通常飼育下で繁殖能があり(XX卵巣)、人為的に熱ショック(HS)を与えることにより、卵巣からXX精巣へと性転換させることができるSry誘導モデルマウス(#44)の樹立に初めて成功した。本モデルマウスを用いて、1)性分化初期(11.0〜11.25dpc)でのSry発現が精巣誘導に必須であること(精巣誘導の臨界期の決定)、2)SRYのみならずFGF9因子が時空間的なSox9発現制御に重要であること、3)Sry直下のカスケードに雄特異的に性腺にエネルギー供給する分子メカニズムの存在、4)Sry単独では完全な精子形成能を持つセルトリ細胞に分化できないこと(XX/Sryセルトリ細胞の機能不全)を見い出した。
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