研究概要 |
本年度は早期離乳モデルにおける雌雄差形成に関わる神経系の検出を試み、以下3点の知見を得た。(1)マウスを生後21日目に離乳した通常離乳群,あるいは生後14日に母マウスから隔離した早期離乳群を設けた。オス特異的な早期離乳群による不安行動の増強に並行して、情動行動の発現にかかわる扁桃体のミエリン特異的脂質グリコシルセラミドの発現量の増加が認められた。電子顕微鏡観察により、扁桃体基底核外側部における神経軸索数の増加ならびに軸索の径の短縮が認められた。このことより早期離乳はオス特異的に前頭前野-扁桃体の機能変化を引き起こすことが示唆された。(2)前年度、早期離乳されたオスにおける前頭前野ならびに海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)発現量低下とBDNFの脳室内投与による不安行動が改善を見出したが、このときBDNF脳室内投与による不安行動の改善にも雌雄差が認められた。すなわち、オスにおいてはBDNF投与による改善効果が投与後3週まで認められるものの、メスにおいては投与後1週間に限局していた。これらのことからBDNFに対する反応性に雌雄差が示唆され、その受容体であるTrkBの活性型リン酸化状態の検討を行った。オスにおいてはTrkBのリン酸化がBDNF投与によって増強することが示されたが、メスにおいては認められなかった。(3)これら性差形成にかかわる性ステロイドの作用を明らかにするため、生後2週あるいは3週齢時に去勢を行い、早期離乳ストレスに対する変化を調べたところ、3週齢では去勢の影響は認められず、2週齢における去勢はオス型のストレス反応を消失させた。この消失はテストステロンあるいはエストロゲン処置によって回復したことから、生後2週齢以降におけるエストロゲン作用がオス特異的ストレス反応の形成に必要であることが明らかとなった。
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