研究概要 |
性ホルモンは、雌雄発現に必須で、その合成や作用の異常は様々な性分化異常を引き起こす。 本申請研究ではアンドロゲン受容体(AR)作用機構,エストロゲン合成酵素(aromatase)活性内分泌撹乱物質等の研究テーマを掲げ、平成18年度にはアンドロゲン作用機構の基礎的研究を中心に研究を進めた。 (1)我々は以前、ARのAF-1領域に結合してAR転写活性化を起こす新しいコアクチベーターANT-1を同定し報告したが(JBC277,30031,2002)、今回ANT-1の構造機能相関を解明し、共役的AR転写活性化領域(アミノ酸146-172)、核内局在シグナル(アミノ酸145-172領域のKRK---KRQR)、核内speckles形成領域(アミノ酸291-399)、AR-AF-1結合領域(アミノ酸399-499)を同定した(BBRC341,192,2006)。 (2)我々は血中アンドロゲン濃度は正常ながら、前頭部禿頭あるいは男性化を呈しアンドロゲン過敏性を呈した一女性患者の皮膚線維芽細胞の解析の結果、低濃度アンドロゲン(DHT)によるAR転写活性化機構の亢進を認めた(初年度実績報告)。種々の結果より本患者のAR転写活性化亢進機序として他のシグナル系とのクロストークによるAR転写活性化の亢進を仮説として考えた。その一機序として、IGF-1シグナルの亢進関与が示唆されたことから、本研究ではIGF-1によるAR転写活性化亢進機序について前立腺癌細胞株をモデルとして、詳細な解析を行なった。FoxO1はFoxOファミリーに属する転写因子であり、細胞周期やアポトーシス、代謝系調節における関与が明らかにされつつある。IGF-1/Insulinシグナルは下流のPI3K-Akt活性を刺激し、FoxO1をリン酸化することによりその機能を不活性化する。我々はFoxO1がARのコレプレッサーとしてその転写活性を調節し、またIGF-1/インスリンシグナルによってリン酸化を受けることによって不活性化され、結果的にAR転写活性が増強する機構を明らかにした。上記機構は前立腺癌細胞のみならず、前駆脂肪細胞株の3T3-L1細胞でも観察された。以上の発見は、前立腺癌のアンドロゲン非依存性増殖メカニズムやPCO(polycystic ovary)における男性化機序の一端を説明する可能性がある(JBC282,7329,2007)。
|