研究概要 |
本研究の目的は、魚類をモデル生物に用いて性決定と生殖腺の性分化の分子メカニズムを明らかにすることである。初年度の平成16年度は以下の研究を行った。 1)性決定メカニズムに関する研究: 先にメダカの性決定遺伝子の最有力候補として同定したDMYのノックダウン実験を行った。その結果、DMYノックダウンXY個体では、精巣形成時に認められる生殖細胞の増殖停止は起こらず、XX個体の卵巣形成時に特徴的にみられる遺伝子発現パターン(例えば、SCP3遺伝子の発現)が観察された。このLoss-of-function実験により、DMYはメダカの性決定遺伝子であると結論された。ティラピアに関しては、性決定期と考えられる孵化後3-7日のXX,XY生殖腺から得られたmRNAをもとにEST解析を行っている。すでに、2万を超えるクローンの塩基配列を決定した。 2)性分化メカニズムに関する研究: メダカ生殖腺の性分化時におけるDMYとその起源遺伝子であるDMRT1の発現パターンを解析したところ、DMYは性決定期(孵化前2日頃)から成体の精巣の精原細胞を囲むセルトリ細胞に強い発現が認められるが、DMRT1は精巣形成後の孵化後20-30日を経過した精巣のセルトリ細胞で初めて発現が起こり、その後も発現は維持された。これらの結果からメダカでは、性決定と精巣分化はDMYが、精子形成の開始にはDMRT1が重要な役割を担っていることが示唆された。ティラピアではDMRT1が精巣分化、芳香化酵素(エストロゲン)が卵巣分化に重要であることが分かっているが、今年度の研究から、DMRT1は転写因子としてAd4BP/SF-1に結合することにより芳香化酵素遺伝子の発現を抑制する作用があることが初めて明らかになった。この結果、精巣分化と卵巣分化に関わる因子間に相互作用があることが初めて示された。
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