本研究の目的は、2種の硬骨魚類(メダカとティラピア)を主な実験材料に用いて性決定/分化の分子メカニズムを明らかにすることであるが、平成19年度には精巣分化に果たすDMRT1の役割を重点的に解析した。遺伝的に雌(XX)であるティラピア受精卵にDMRT1を過剰発現させると、XX個体でありながら、精巣が形成された。少量の卵巣も形成されたが精巣に比べると著しく小さかった。形成された精巣には種々の発達過程にある生殖細胞(精原細胞、精母細胞、精細胞、精子)とともに、著しく活性化された2種の体細胞(ライディッヒ細胞、セルトリ細胞)が認められた。特に、ライディッヒ細胞では3β-HSDなどのステロイド代謝酵素が強い発現(遺伝子、タンパク質レベルとも)を示した。さらに、性転換したXX雄は正常な雄の性行動(体色も雄型)を示すとともに、それらの個体から得られた精子の運動能(運動時間)は正常のXY雄や超雄(YY)の精子よりも著しく高かった(2〜3倍)。一方、メダカではDMRT1遺伝子のDMドメイン配列に変異を起こさせると、遺伝的には雄(XY)でも生殖腺の一部に卵巣が形成されることがわかった。以上のDMRT1のloss-of-functionとgain-of-functionの実験結果と、すでに我々が明らかにしているメダカやティラピアの生殖腺の性分化におけるDMRT1の遺伝子発現パターンの結果を総合すると、DMRT1は魚類の精巣の分化、形成に不可欠であると結論された。
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