研究概要 |
本年度における代表的成果は下記の通りである。 <単一遺伝子疾患としての性分化異常症> 新規性分化異常症責任遺伝子の同定と機能解析:隣接遺伝子欠失に基づいて性分化異常症候補遺伝子をX染色体長腕から見いだし,様々な性分化異常症患者117例のうち陰茎基部開口型尿道下裂を有する3家系4例においてナンセンス変異を同定した.そして,マウス相同遺伝子が,精巣のセルトリ細胞とライディッヒ細胞において胎児期の性分化決定時期において一過性に発現していることを見いだした.さらに,この新規性分化異常症責任遺伝子がNotchシグナル伝達のco-activatorであるMastermind-like2と類似する構造を持つことから,Notchシグナル伝達解析を行い,この新規性分化異常症責任遺伝子が従来の経路とは無関係にNotch target genesを活性化することを発見した.これは,性分化異常症における新規単一遺伝子疾患を確立するものであり,性分化異常症の原因が胎児期における精巣機能不全であることを示唆する.さらに,新規Notchシグナル伝達経路の存在を明確にするものである. <多因子疾患としての性分化異常症> エストログン受容体α遺伝子(ESR1)のハプロタイプ解析:昨年度にひきつづき,本年度は,尿道下裂患者43例と正常小児82例の解析を行った.エストロゲン受容体α遺伝子に約50kbの強固なハプロタイプブロックが存在することを確認し,このブロック内の特定ハプロタイプ(AGATA)のホモ接合性が,おそらく内分泌撹乱物質のエストロゲン様効果に対する感受性を亢進させることで尿道下裂発症に顕著に寄与することを見いだした(ホモ接合体頻度、尿道下裂患者11/43対正常男児2/82,P=0.000057、オッズ比13.75、95%信頼区間2.89-65.53).これは,昨年度の停留精巣の成績と合わせて,内分泌撹乱物質にたいして高い感受性を有する個体が存在することを確信させるものである.
|