研究概要 |
1 我々は音や味覚を始め,様々な刺激に応じて細胞膜でCaイオンを透過させて,細胞内へと刺激を伝えている。そこで主役として活躍するのがTRP channel群である。これらは,情報伝達物質との結合により,分子内イオン通路を開いてCaイオンを導入し,細胞内部へと情報を伝達する。その中でも特に,温度感受や酸化ストレスのセンサーであるTRPM2は注目されている。このチャンネルを精製・負染色電顕撮影・単粒子面像解析を行い,隙間だらけの膨れあがったべル型2重入れ子構造を持つことを解明した。解明された三次元構造でば,張り出した構造が3次元的な結合スペースをつくり出し,様々な制御タンパク質を同時に結合し,多様な刺激のセンサーであることを可能にしている。さらには酸化ストレスを感知する酵素部位NUDT9-Hドメインは,ベルから細胞内に突き出ている突起と考察された。本チャンネルは,特に糖尿病の発症機構と深く関連することが知られており,更なる高分解能での構造解明を目指したい。 2 内耳蝸牛に存在する外有毛細胞は細胞膜電位の変化に応じてその細胞長を周期的に変化させ,その動きを使って基底膜の振動増幅するわち音シグナルの増強を行う。周期振動はマイクロセカンドレベルール(〓20kHz)と,これまで知られているモータータンパクの中でも最も早い動である。その分子実体は近年プレスチンであると同定された。これは陰イオントランスポーターSLC26ファミリーに属する,12回膜貫通型の膜タンパク質であった。その後,本遺伝子の変異による難聴患者や,ノックアウトマウスにおける聴覚障害が確認されている。本研究ではプレスチンを精製し,負染色電子顕微鏡観察の単粒子構造解析より立体構造を解明した。プレスチンは全体として弾丸型の分子であり,電圧変化に応じてC1イオンが行き来すると思われる空隙をその内部に確認することができた。本研究を聴覚の分子レベルでの理解と治療に役立てたい。
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