2006年7月から同10月にかけて、当該遺跡のおよそ220m^2の範囲を新たに拡張し、その一部において建物床面まで発掘調査を実施した。また、既調査区域内のおよそ45m^2の範囲で、建物床面レベル以下の部分の掘削を行った。発掘調査には、当領域を構成する火山学、日本考古学、西洋史学、物理探査、3次元計測、地理学、農学等の各分野の研究者が参加し、本研究推進のためのデータ採集を行った。 遺構については、新たに建物北東部分のプランが確認され、紀元後3世紀から4世紀にかけて描かれたと思われる、ギリシア神話の世界を表した極めて美麗な壁画で装飾された巨大なアプシスを有する部屋ならびにその周辺部が検出された。遺物については、建物の創建期に属するものが多数採集された。現在まで基礎的な整理・登録作業を継続中であり、その作業と平行して、個々の遺物の型式学的研究を進めている。 今までの調査において検出された遺構に関しては、できうる限り埋没前の状態を復元できるように、調査範囲の屋根掛け、構築物の理化学的手法を用いた保存・修復作業を、現地の保存修復科学研究者との連携のもとに適宜実施した。 今年度の調査によって、当遺跡の主要な建物は、紀元2世紀代創建された可能性が高まってきた。これにより、少なくとも調査範囲においては、当遺跡とアウグストゥス帝との直接の関係性については、相対的にその可能性が低下し、むしろその公共性と宗教性がクローズアップされてきたと言うことが出来る。 一方、現在までに調査の及んでいる範囲は、かなり大規模な建物群の一角を占めるに過ぎないものであろうという認識には変わりがなく、調査の進行している個別建物の全体像を明確にするのにもあと数年を要し、遺跡全体におよぶ社会的および文化的性格、建物群の配置状況などの把握には、今後の継続的な調査が必要であることも再認識された。
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