2008年7月から同10月にかけて、既存調査範囲の北東方向におよそ150m^2の範囲を拡張して建物床面まで発掘調査を実施した。発掘調査には当領域研究を構成する各分野の研究者が参加し、本研究推進のためのデータ採集、各種解析研究を行った。 2007年に検出されたアプシスを有する部屋の全容を明らかにし、建築装飾や遺された什器の痕跡から、構築時から噴火による埋没直前に至る文化的要素を時間軸に沿って復元的に抽出することができた。また、ワイン醸造に関わる生産遺構と推定される一連の埋設甕群も新たに検出され、遺跡全体の機能の変遷を考える上で貴重な情報を得ることができた。こうした遺構については、調査範囲の屋根掛け、彩色壁画の剥ぎ取り保存、構築物の理化学的手法を用いた保存・修復作業などを、現地の保存修復科学研究者との連携のもとに適宜実施した。 遺物については、噴火罹災直前の時期に属するものの型式学的研究が進展し、地域的土器生産体制と地中海広域交流に基づく土器流通の様相の理解を深めることができた。遺構の本来の性格に関しては、建物の構造や装飾から、公共性と宗教性がより一層クローズアップされることになってきた。一方、現在までに調査の及んでいる範囲は、かなり大規模な建物群の一角を占めるに過ぎないものであろうという認識には変わりはなく、この遺構を含めた遺跡全体が有するであろう社会的および文化的意義、あるいは、調査地周辺の、未だに埋没しているであろう建物群の配置状況などの把握には、なお継続的な調査力必要である。
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