研究課題
特定領域研究
本研究では、イタリアのヴェスヴィオ山、フィリッピンのピナツボ、日本の三宅島を対象として自然環境の変化のプロセスを中心として研究を行った。第一は、今回の研究において、噴火によって埋没した当時の植物遺存体からローマ時代の建築物に使われていた木材の種類や食用植物の解明を進展することができた。当時の建築用の資材としてクリが多用されていたことが判b明した。当時の南ヨーロッパでは、クリを建築の用材として活用することは、一般的でなく、この地域の特異な現象である。おそらく、ヴェスヴィオ周辺ではクリの生育が気候的に合致したため、そのクリを食用にするとともに、大きく成長させて木材として活用するという、文化的な基盤が形成されていたと考えられる。第二は、地形学や水文学的に遺跡の立地と環境の変遷を明らかにすることである。遺構「Area12」で複数個体の大甕が検出された。この甕では、商品的な価値を持つぶどう酒の製造が行われていたものと想定される。実際に遺跡からはブドウの種が多数検出されている。なお、ぶどう酒を製造のためには、相当量の水が必要になる。この点で、本研究では周辺地域の地形構造を解析した。その結果、発掘地であるソンマ・ヴェスヴィアーナの上流域に当たるソンマ山の大きな2つの谷が、他の流域と比べて水源涵養能力が極めて高いということが明らかになった。第三は、ランドスケープの保全活用である。イタリアは、以前から文化的な遺産を重視したランドスケープの整備を行うという考え方が定着している。本研究で最も重要と考えられたのは、いかに遺跡周辺で伝統的な農村ランドスケープを維持していくかということである。この観点からすると、クリの栽培をこの地域で再評価すること、ブドウ畑を今後とも保全していくことが、一体的なランドスケープの保全活用のために重要であると考えられた。これまでの農業に特化した農村環境整備から、伝統的景観の保全によるグリーンツーリズムの振興を含めたトータルな農村環境整備へと発展させていくことが望ましいと考えられる。そのほか、ピナツボ火山では噴火後の自然環境の復元にはおよそ50年かかること明らかとなり、三宅島では小規模な火山噴火が連続して起きても植生等にはあまり影響を及ぼさないことが明らかになった。
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