本年度は以下のような成果をあげることができた。まず、モバイルエージェント技術を用いた分散システムのための新しいモデル上で、ユーザに提供されるサービスがサーバの移動に伴って中断しないようにするためのサーバ数に関する必要十分条件を明らかにした。具体的には、すべてのユーザに対して均一なサービスが提供できるようなサーバの配置をネットワーク上の支配集合の概念を用いて特徴づけし、移動可能なサーバを何台用意すれば、すべてのユーザに対するサービスを中断することなく継続的に提供できるのかを理論的にあきらかにした。詳細な検討の結果、与えられたネットワークが木構造の場合、総頂点数の約半数のサーバが必要十分であり、与えられたネットワークがハミルトングラフの場合、頂点数の約1/3のサーバが必要十分であることが証明された。次に、空間内にばらまかれたセンサーノードに対して、その正確な位置情報を自律分散的に推定させる問題を考え、具体的なアルゴリズムを提案するとともに、その性能を、実機を用いて具体的に実証した。提案手法はHeらによって提案されたPITテストに基づいている。PITテストは空間内に配置された特別なノード(アンカー)たちによって構成される三角形のそれぞれについて、観測点がその内部にあるか外部にあるかを判定するためのテストであり、観測点からの空間的な微小変位をどのようにして実現するかが、その実装における重要な鍵となる。提案手法では、アンカーグループという新しい概念を提案し、アンカーグループの移動・送信スケジュールをうまく構成することによって、効率のよい位置測位を実現する。実機を用いた詳細な評価の結果、16メートル四方の空間内の位置推定を2メートル以内の誤差で実現できることがあきらかになった。
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