研究概要 |
がんの発生,進展過程についての解明,とりわけ転写ネットワークに生じた変異の体系的解明するために,遺伝子発現,メチル化,染色体変異,さらに転写因子の結合及びクロマチン修飾を体系的に行ってデータを統合することにより,測定法及びデータ統合法の開発を進めた。 1.臨床ゲノム学的解析 発現プロファイルとアレル別ゲノムコピー数の解析 肝細胞癌で高発現する遺伝子Notumはb-catenin変異陽性例で発現亢進しており,Wnt/b-cateninシグナルによる制御が示唆された。ChIP(クロマチン免疫沈降)によりNotum遺伝子上流配列にb-cateninが結合することから,Notumは古典的(canonical)Wnt経路の標的遺伝子であると考えられた。 SNPマッピングアレイを用いたアレル別コピー数解析により,悪性膠芽腫28例中3例に認められたホモ欠失領域(13q)に含まれる遺伝子を発現誘導することにより培養細胞,移植腫瘍の増殖抑制が認められ,新規癌抑制遺伝子と考えられた。 網羅的メチル化解析 ゲノムタイリングアレイを用いたMeDIP-chip法によりメチル化プロファイリングを行った。肝癌細胞株,肝細胞癌,非腫瘍組織についてメチル化プロファイルを比較検討したところ,Polycomb標的遺伝子群が高頻度に癌細胞でメチル化されていることが判明した。 大腸癌細胞株HCT116を5-azadCおよびTrichostatin処理することにより発現回復する遺伝子の抽出を行い,マイクロサテライト不安定性陰性症例にも高メチル化群と低メチル化群に層別化される傾向が認められた。 幹細胞および各細胞系譜においての特異的なメチル化の解析をマウス及びヒトES細胞及び分化させた細胞を用いて進めた。ES細胞では予想通り低メチル化状態にあることを認めた。 2.転写調節遺伝子の同定と機能解析 3T3-L1細胞の脂肪細胞分化時においてPPARg/RXRaの結合とヒストン修飾の変動を解析した。 3.転写ネットワーク変異の同定 CTCFとcohesinが高頻度に共局在することを同定し,cohesinが転写調節,インスレータ機能に重要な役割を果たすと考えられた(Wendt, Nature 2008)。
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