研究概要 |
1.ミオグロビン溶液における鉄中心の電子状態解析 平成20年度は,溶液状態のミオグロビンに対して,ようやく十分な分解能とS/N比のデータが得られるようになり,偏光依存性も含めた結果を揃えることができた。ミオグロビン中のヘム鉄イオンの共鳴X線発光スペクトルに対しFe3d電子の電子相関(原子内多重項)を完全に取り入れた配置間相互作用(CI)計算を行った。この解析から,ヘム蛋白中Feイオンの電荷移動エネルギーΔは非常に小さいかあるいは負の値をとり,ミオグロビンは典型的なHalden-Anderson型物質であることが明らかとなった。この小さなΔ,あるいは負のΔがFeイオン-ポルフィリンの電子雲間の強い混成を引き起こし,ミオグロビンのFeイオンが二価や三価の状態を容易に取れる原因となっていることが判明した。 2.溶液中のアミノ酸,ポリペプチドの電子状態 タンパク質は,温度,圧力,pH等がある範囲の値から外れると,折りたたまれてまとまった(フォールディング)状態から,ほどけた(アンフォールディング)状態になってしまう。このような現象には,タンパク質の側鎖の電離や水素結合が大きくかかわっていると考えられている。タンパク質の構成要素であるアミノ酸あるいはアミノ酸の重合体であるポリペプチドの水溶液中での性質をしらべる研究を行い,pH変化による電離を電子状態から検出することに成功した。 3.アミノ酸,タンパク質溶液測定のための装置開発 平成20年度は,軟X線発光分光器に追加して効率を向上させるためのミラー光学系を開発した。液体の水において試験的な測定を行ったところ,このミラー光学系の導入によって観測される信号強度を約4倍向上させることに成功した。
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