研究概要 |
本研究は,90年代後半より急速に進展した赤外線観測による星周辺の岩石的粒子の観測の結果をふまえ,固体粒子形成カイネティクスとその物理的基礎を実験的に理解し,その結果を用い様々な星周環境における粒子の成長を理論的に予測し,星の進化と粒子進化の関係を解明することをめざしている.これまでに新しいタイプの凝縮装置の開発を平成18年度は,ヒータータイプのガス発生装置の開発をおこない,長時間,安定的に高温のガスフラックス供給を可能とすることに成功した.まだ系統的な実験結果を得るにいたっていないが,予察的な実験の結果,金属-珪酸塩のあいだの凝縮におけるぬれ性について,重要な知見をえた.従来,理論的な見地から,きわめて大きな表面張力のため,金属は珪酸塩に対しぬれ性をもたないと考えられてきたが,本実験の結果,表面のミクロラフネスにより,過飽和比15程度でぬれ性をもつことが明らかとなった.この結果は,星周環境における粒子形成にきわめて大きな影響をもつ.平均的宇宙元素存在度のガスの場合,高温でAl,Caを主体とする酸化物が形成され,その後圧力条件によりMg-Si珪酸塩か金属鉄が順番を逆にして形成する.今回得られた結果を用い理論的考察を行った結果,系の冷却速度がきわめて小さい場合は金属鉄,珪酸塩はそれぞれ単独粒子を形成するが,冷却速度が大きい場合は,珪酸塩粒子の表面に鉄が凝縮し,混合粒子を形成する.その結果,ガスはSiOに関し過飽和となり,SiO2を固相として凝縮させる.晩期星周囲の赤外スペクトル観測では,astronomical silicateといわれる珪酸塩を主とし,金属を含む粒子とSiO2の共存がもっとも適切にスペクトルを再現するといわれており,今回の計算結果とよく一致することがわかった.すなわち,シリケイトダストの進化は金属鉄ダストの進化と密接な関係にあることが示された.
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