研究概要 |
本研究は、生物とそれを取り巻く環境との関係性をゲノムレベルで明らかにすることを目的とし、4つの研究課題(1.ヒトの個別性に関係した遺伝子の探索、2.ヒトや霊長類において環境や生殖に密接に関わる遺伝子の研究、3.家禽特異的発現抑制遺伝子の探索、4.極限環境への適応)を設定している。1の課題については、(1)ヒトとチンパンジーの皮膚で発現する遺伝子のプロファイルの比較により新たに偽遺伝子を二つ同定した。(2)ヒトの頭皮で発現している遺伝子に候補を絞り、その発現の有無をヒトとチンパンジーの皮膚mRNAで比較した。また、(3)機能を有するプロセスド偽遺伝子の進化についての解析結果は、Genetics誌に掲載された。(4)シアル酸水酸化酵素偽遺伝子の人類集団への拡散についての解析結果はGenetics誌に掲載された。(5)ヒトの精神活動に関わる脂質代謝系の遺伝子の進化集団遺伝学的解析を行なった。これについては、現在結果をGenetics誌に投稿中である。2の課題に関しては、霊長類の性染色体遺伝子の進化について、性染色体上の遺伝子の分子進化学的解析を行った。Y染色体についての結果はGenome researchに,またX染色体については、解析結果の一部がCells, Tissues, Organsに掲載予定である。また、獲得免疫系に関わるMHC遺伝子の機能と偽遺伝子化率との関わりについてはMHC誌に総説を掲載した。また解析結果は現在投稿準備中である。3の課題に関しては家禽に保持される遺伝的変異の由来を明らかにするため、33の核遺伝子のイントロンについて、家禽4系統10個体、赤色野鶏4個体、青襟野鶏4個体の集団遺伝学的研究を進めた。その結果家禽の遺伝的多型の起源は2〜300万年前にさかのぼること、家禽化の過程で極端な遺伝的変異の減少(ビン首効果)はなかったこと、祖先集団が大きかったこと、あるいは家禽化の過程で野鶏からの遺伝子流入が頻繁であったことを示した。この結果は現在投稿準備中である。4の課題については塩基配列データ解析で示される遺伝子系統樹の樹形の不一致性などを考慮してノトセニア亜目魚類の進化について集団遺伝学および分子進化学的観点から考察した。
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