研究概要 |
核-細胞質間蛋白質輸送機構に関する研究は,輸送担体であるimportinβファミリー分子,importinαを代表とするアダプター分子,低分子量GTPaseであるRanやそのサイクルに関する因子群の発見ならびに性状解析が進められ,輸送機構に関する基本的な分子メカニズムの理解が進んだ.しかし,核-細胞質間蛋白質輸送が,個体発生,細胞分化・増殖,細胞周期といった様々な生命現象とどのように深く関連しているのかについては知見が乏しい.本研究は,importinβに結合することなく単独で核内に移行する能力を有することをわれわれが発見したimportinαやRanのストレス依存性細胞内局在変化の分子メカニズムを明らかにするとともに,細胞核がどのようにストレスに対処するのかを,核-細胞質間蛋白質輸送制御の観点から解明することを目的とする.本年度は,細胞がストレスを受けた際に,細胞内ATP濃度が低下すること,そのATP濃度の低下がGTP結合型Ranの減少ならびにRanの細胞内局在変化を誘導することを報告した.このRanの局在異常がimportinαの核内蓄積を導き,ストレス条件下で起こる核蛋白質輸送の制御反応の引き金になることを提唱した。また,ストレス条件下でimportinαが核に蓄積することの生理的意義を明らかにするため,核内に蓄積したimportinαが何らかの遺伝子の発現に影響を及ぼす可能性を考え,DNAアレイを用いて,importinαが核に蓄積した状態とそうでない状態で遺伝子発現に差異が見られるかを解析したところ,ヒストンなど,多くの遺伝子の発現が抑制されるという興味深い結果を得た.さらに,importinαによりヒストンのアセチル化反応が亢進するという予備的結果も得ており,核内に蓄積したimportinαの新たな機能を見出す手がかりが得られたと考えている.
|