本研究では、ホヤの初期発生過程に関して卵内で局在している因子と誘導的細胞間相互作用の二つのテーマに関して研究を行うことを目的としている。 まず、局在している因子に関して我々は9種の母性mRNA(postplasmicRNA)が受精卵の後方に局在して存在していることを発見している。この中で、特に二つのmRNAについて特筆すべき結果を得た。POPK-1はカイネースをコードしており、その機能を阻害するとすべてのpostplasmicRNAの胚後極への濃縮が阻害されることがわかった。postplasmicRNAは卵表層の小胞体に結合していることがわかっているが、その小胞体の移動自体が異常になっていることが判明した。また、Centrosome-Attracting Body(CAB)と呼ばれる胚後極の細胞内構造の形成も異常をきたしており、そこに濃縮される生殖細胞質とおぼしきものの局在も乱されている。これらの解析をほぼ終了し、現在論文を投稿中である。 postplasmicRNAのなかで、PEMと呼ばれるmRNAの機能を阻害すると卵後極でのみ起こる不等卵割が等卵割に変更されることがわかった。不等卵割では後部の中心体に発する微小管が胚後極のCABに繋がれ、中心体がCABに向かって引き寄せられる。PEMの阻害胚では微小管がCABに収束せず、前方の割球と同じく放射状に広がったままになることがわかった。 もう一つのテーマである胚誘導に関しては、脊索誘導において応答能を制御する因子の候補としてHrzicNという転写因子について解析を行った結果、HrzicN単独では誘導シグナルであるFGFと協調して脊索を形成することができないことが示唆された。脊索特異的に発現するbrachyury遺伝子の転写調節領域の解析からは、転写開始点から5'側上流398bpの領域内に、転写に必要な10bpから数十bp程度の独立な3つの領域を同定し、さらにその上流にFGFのシグナルに応答する領域が存在することを明らかにした。これら3つの領域はHrzicN、FoxAの認識配列を含み、これら転写因子の機能を阻害した場合に、上流398bpの転写活性は失われることがわかった。 間充織誘導においては、tbx6という転写因子がFGFに応答して間充織で発現しなくなることにより、その下流に存在する一連の筋肉特異的遺伝子の発現を抑制することを明らかにした。したがって、FGFシグナルによって活性化されるEts転写因子と内在性の応答能を制御する因子が協調して働く場としては、tbx6遺伝子の転写調節領域である可能性があり、現在その解析を行っている。
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