本研究の目的は、実験生理人類学によって蓄積する、あるいは蓄積されてきた実験データに理論生理人類学という新たな考え方を導入し、両者の融合から生理人類学を体系化することである。 平成16年度は、実験生理人類学においては、生理人類学の5つの重要キーワードの内、生理的多型性と全身的協関に焦点を当てて実験を行った(宮崎、印刷中)(恒次・宮崎、印刷中)。1.全身的協関の観点から脳機能計測(近赤外時間分解分光連続測定システム等)、自律神経活動連続計測(血圧、脈拍数等)ならびに唾液中コルチゾールと免疫グロブリンによる絶対値計測評価システムを確立した。2.フィールド実験においては、近赤外時間分解分光法を世界的にも始めて適用し、森林環境下において都市部に比べ前頭前野の活動が有意に鎮静化することを示した。血圧、唾液中コルチゾール濃度も有意に低下した。3.室内実験においても、自然由来の五感に関わる刺激はフィールド実験と同様に生体を鎮静化させた。また、味覚刺激によって、前頭前野の活動が減少する群と増加する群が存在することを見いだし、その違いをパーソナリティ(タイプA行動パターンならびに状態・特性不安)を使って説明した。さらに、刺激前の前頭前野の血液動態とパーソナリティの違いにも関連があることを明らかにした。 理論生理人類学については、遺伝子型、環境・文化、表現型の関係に関するモデル化にあたり、5つの重要キーワードについて、その定義を確定するとともに整理人類学の枠組みについて明らかにした(佐藤、印刷中)。それを基盤として6月のモスクワ大学とのジョイントシンポジウムにおいては実験・理論生理人類学に関する議論がなされる。生理人類学の体系化が実質的に促進されつつある。
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