本研究の目的は、実験生理人類学によって蓄積する、あるいは蓄積されてきた実験データに理論生理人類学という新たな考え方を導入し、両者の融合から生理人類学を体系化することである。 実験生理人類学においては、フィールド実験(全国の森林部と都市部)ならびに実験室内実験(人工気候室)を実施した。フィールド実験においては、実験デザインならびに評価システムの確立にも力点をおいた。その結果、以下の3点が明らかとなった。1.宮崎県、山口県、長野県、岩手県等の複数の森林において、都市部を対照として、森林浴効果を調べた。心拍変動性、血圧、脈拍数、唾液中のコルチゾール・免疫グロブリンA・アミラーゼを同時計測し、副交感神経活動の昂進、交感神経活動の抑制、血圧、脈拍数の低下、コルチゾール濃度の低下等の一連の変化が生じることを明らかにした。2.室内実験においては、近赤外分光法による時間分解計測法を用いた多点(10ch)ヘモグロビン濃度絶対値計測法を確立した。前頭前野10カ所(左右5chずつ)において、部位ごとのオキシヘモグロビンならびにデオキシヘモグロビン濃度に差異があり、活動が異なっていることを見出した。さらに、視覚刺激においても、前頭前野10カ所の部位ごとに異なる応答を観察し、活動の局在性を認めた。3.近赤外時間分解分光法による脳活動の絶対値計測ならびにfMRIの同時評価システムを確立し、視覚刺激実験を実施した。データについては解析中である。 理論生理人類学については、生理的多型性、全身的協関、機能的潜在性、テクノ・アダプタビリティー、環境適応能という生理人類学の主要概念について検討を進めた。実験生理人類学の成果とあわせて、人類学の体系化を進めつつある。
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