本研究の目的は、実験生理人類学によって蓄積する、あるいは蓄積されてきた実験データに理論生理人類学という新たな考え方を導入し、両者の融合から生理人類学を体系化することである。 実験生理人類学においては、フィールド実験ならびに実験室内実験を実施し、以下の3点を明らかにした。1.17年度(10ヶ所)と18年度(14ヶ所)、計24ヶ所において288名を被験者とした森林浴実験を実施した。その結果、森林浴は、コルチゾール濃度を13.4%低下、副交感神経活動(心拍変動性)を56.1%上昇、交感神経活動(心拍変動性)を18.0%低下、脈拍数を6.0%低下、収縮期間血圧を1.7%低下、拡張期血圧を1.6%低下させることが分かった(都市部との比較、すべて有意差あり)。2.室内実験においで1は、近赤外分光法による時間分解計測法を用いた脳前頭前野の多点(10ch)ヘモグロビン濃度絶対値計測法を確立し、パーソナリティとの関係を調べた。その結果、タイプAならびに低特性不安群においては、前頭前野の活動が高く、タイプBならびに高特性不安群においては、前頭前野の活動が低いことが分かった。さらに、視覚刺激に対する反応については、活動の高い群では低下し、活動の低い群では増加すること、つまり、元々の活動レベルと刺激に対する反応においては、負の有意な相関が存在することが示された。3.近赤外時間分解分光法による脳活動の絶対値計測ならびにfMRIの同時評価システムを確立し、各種の刺激を付与した場合のデータを蓄積中である。 理論生理人類学については、生理的多型性、全身的協関、機能的潜在性、テクノ・アダプタビリティー、環境適応能という生理人類学の主要概念について検討を進めており、実験生理人類学の成果とあわせて、人類学の体系化を進めつつある。
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