研究課題
本年度は、ゲノム解読を中心に研究を進め、その結果ファイトプラズマの全ゲノム解読に世界で初めて成功した。全構造解析の結果、ファイトプラズマゲノムは、DNA複製や転写、翻訳に必要な基本的遺伝子が認められた一方で、アミノ酸合成系、脂肪酸合成系、TCA回路、酸化的リン酸化に関与する遺伝子を欠いていた。これはマイコプラズマ同様、代謝に必要な物質の多くを宿主細胞に依存していることを示すものと思われる。しかし、ペントースリン酸回路やPTS、ATP合成酵素に関する遺伝子も欠いており、自律増殖する生物において、最少遺伝子を持つとされるマイコプラズマより代謝関連遺伝子が少なかった。これはファイトプラズマがマイコプラズマと異なり、細胞内寄生で栄養豊富な植物篩部に生息するため、退行的進化により遺伝子の多くを失ったのであろう。逆に、ファイトプラズマゲノムには、マイコプラズマには無い膜輸送系遺伝子が多数コードされていた。また、アミノ酸や糖、リンゴ酸などのほか、マンガンや亜鉛、マグネシウム、コバルトなど金属イオンの取り込みに関与する膜輸送系も数多くコードされ、植物の生育に必要なこれらの金属イオンが、ファイトプラズマの感染により宿主から収奪され、ファイトプラズマ病に特徴的な病徴のひとつである養分欠乏に似た症状を引き起こす一因になっている可能性がある。生物の「最少ゲノム」については、これまで数多くの研究があるが、ファイトプラズマゲノムはエネルギー合成系をも欠き、栄養豊富な環境に適応した、新しいタイプの「最少ゲノム」であり、生物は生活する環境によって想像以上に多様な遺伝子構成で生きてゆけることを示唆している。今後昆虫伝搬能決定因子の解明が急速に進むことが期待される。
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