研究課題
脂肪萎縮症では脂肪細胞の分化や中性脂肪保持機構が著しく障害され、脂肪細胞で処理できなくなった糖・脂質が肝臓、骨格筋などの非脂肪組織、血液プールに過剰に蓄積することによってインスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症、脂肪肝などの代謝異常が重積する病態であり、メタボリック症候群の病態解明や新規治療法開発の足掛かりとなる貴重なモデル疾患である。本年度もヒト全身性脂肪萎縮症を対象とする生理的濃度のリコンビナントレプチン補償療法の長期安全性と有用性を検証し、足掛け5年間にわたる長期レプチン補充療法が顕著なインスリン抵抗性の改善、除脂肪重量の減少効果を安定的に発揮することが確認できた(J.Clin.Endocrinol.Metab.92:532-541,2007)。さらに、ストレプトゾトシンによる膵島破壊・インスリン分泌低下の状態に高脂肪食を負荷した新しいマウス実験モデルを確立し、生理的濃度のレプチン補充が優れたインスリン抵抗性改善作用、糖脂質代謝改善作用を発揮することが確認され、インスリン分泌不全・インスリン抵抗性・肥満を伴う二型糖尿病に対するレプチンの治療的有用性が実証できた(論文投稿準備中)。我が国唯一の臨床研究機関として実践してきたこのトランスレーショナル研究の成果を踏まえ、最終年度の次年度はリコンビナントレプチン補償療法の医師主導型治験を開始する予定であり、種々の病態を示す糖尿病や肥満症に対するレプチンの臨床応用に向けた準備が整った。一方、肥満におけるレプチンの作用不全(レプチン抵抗性)の分子メカニズムを明らかにする目的で視床下部メラノコルチンシグナルの薬理学的活性化が遺伝子操作マウスや遺伝的肥満モデルマウスの骨格筋脂肪酸酸化能に及ぼす効果を解析した。メラノコルチン受容体のアンタゴニスト、アゴニストのマウス脳室内投与がそれぞれ骨格筋AMPKおよびACCのリン酸化の減弱・亢進を惹起すること、高脂肪食によってレプチン抵抗性を獲得したレプチン過剰発現トランスジェニックマウスに対するメラノコルチン受容体アゴニストの脳室内投与が減弱していた骨格筋AMPKの再活性化をもたらし、糖脂質代謝を改善することが明らかとなった(Cell Metab.5:395-402,2007)。メラノコルチンアゴニストがレプチン抵抗性を克服できる可能性を示唆するものであり、次年度以降のトランスレーショナル研究への応用が視野に入ってきた。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (6件)
J Clin Endocrinol Metab. 92
ページ: 532-541
Dev Dyn. 236
ページ: 2779-2791
Cell Metab. 5
ページ: 395-402
Am J Physiol (Endocrinol Metab.) 293
ページ: E819-825
J Biol Chem. 282
ページ: 29574-29583
J Appl Physiol 102
ページ: 1007-1013
Obesity (in press)