研究概要 |
-昨年度は,読むスピードも速くかつ内容理解も深い速読者とそうではない非速読者の視覚的注意能力の差を,視覚探索課題を用いて調べた結果,非速読者に比べて速読者は,能動的な視覚的注意と受動的な視覚的注意のいずれにおいても優れていることが明らかとなった.昨年度は,速読者の視覚的注意の強化が,注意の範囲に関係するのかそれとも注意の単位面積あたりの情報処理量に関係するのかを調べた結果,密度に対する注意が強化されていることを示唆する結果を得た.一般に,その及ぶ範囲を意識的に制御できるということが注意の要件とされている.昨年度までの結果は,速読者が非速読者と比較して視覚的注意の点で優れていることは示しているものの,注意の及ぶ範囲を意識的に制御できていることは示されていないため,速読者において強化されているものが本当に(視覚的)注意と呼べるのかは定かではなかった.そこで今年度は,速読者の視覚的注意の特性を,注意の及ぶ範囲の意識的な制御可能性という観点から実験的に検討した.具体的には,Sperling(2004)の手法に従い,ディスプレイ上に視覚探索課題の刺激を表示する前に注意を向ける領域を指定し,その後同一画面上でコントラスト感度測定課題を実施した.この実験を,事前に注意を向ける領域の大きさや形状を様々に変化させて繰り返し実施し,注意を向けるべき領域の内外のコントラスト感度分布を測定した.この実験では,速読者は領域の内外で感度が大きく変化し,領域に対して適切に注意を制御できるのに対して,非速読者はそのようにはならないという結果が予想された.非速読者5名,速読者3名に対して実験を実施したところ,この予想を支持する結果が得られた.この結果から,速読者が訓練によって強化されているものは(視覚的)注意だと言うことができよう. これまで,速読者と非速読者の理解度が同じであるかどうかを厳密に比較してこなかった.今年度は,そのような比較を可能にする新たな理解度テストを開発し,速読者ならびに非速読者に対して実施した.この理解度テストでは,被験者に100〜150ページ程度の小説を10〜15分程度で読んでもらい,読書の後に文章の内容に関係した課題を解いてもらった.課題は2セット用意され,1セット(課題セットA)は読書直前に見ることが許されたのに対して,もう1セット(課題セットB)についてはそれが許されなかった.時間に比べて読むべきページ数が膨大なので,非速読者は課題セットAに解答するために飛ばし読み(skimming)をせざるを得なかったのに対し,速読者はすべての内容をくまなく読むことが可能であった.そのため,非速読者は課題セットAの正答率は良いものの課題セットBの正答率が下がるのに対して,速読者は両課題セットの正答率とも高いと予想された.被験者数が少ないので確定的なことは言えないが,現在得られている結果は,この予想を裏付けるものである.
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