研究概要 |
【ダイナミックな制御過程】 我々はこれまで到達把持運動制御において運動初期の視覚情報が重要であることを明らかにしてきた。本年度は把持運動速度を上げたときにこの特性がどのように変化するかを調べた。その結果、これまで同様、運動初期の視覚特性が重要であるが、これまでよりさらに早い期間が重要になることが示された。一方、functional MRIを用いて、曲線をマウスを用いてトレースする課題中の脳内活動を調べた。その結果、自己の運動指令から手の運動の予測を行うのが右の側頭・頭頂接合部(TPJ)であり、手とターゲットの位置の運動誤差を計測するのが後部頭頂皮質(PPC)であることが示唆された。 マグカップの取っ手の向きが,到達把持運動の運動学的特性に対して与える影響について,心理実験による検討を行った.実験協力者は,2つの左右に並んだマグカップ(取っ手の向きは左右の2通り)のいずれかがスポット光で照らされると同時に到達把持運動を行った.その結果,把持を行うマグカップの取っ手が左向きで,行わないマグカップの取っ手が右向きのときに,運動の初期段階で親指と人差し指の間の距離が大きくなる傾向がみられた.このことは,マグカップの取っ手が右向きのときには習慣的なインタラクションの知識から運動計画が自動的に生成され,実際に把持を行う取っ手が左向きのマグカップに対する運動計画と干渉が生じることを示唆している. 【異種情報の統合】 VR環境により形状が動的に変化する仮想物体を呈示し,物体の変形量を視覚と触覚を用いて推定するという心理実験課題を通して,動的な性質に対する異種統合過程を検討した. その結果,静的な性質の推定同様,動的な性質の推定においても,複数の感覚を用いることで単一の感覚よりも精度の高い推定が可能であることが示された.また各感覚間に時間的なずれを加えて物体の変形を呈示した結果,125ミリ秒以上のずれが存在する状況での統合効率の低下が観察された.異種感覚統合過程においては,各感覚の情報が時空間的にコヒーレントな状況ではオンラインで統合された表象を用いた精度の高い推定が可能である一方,感覚間の情報の乖離に対して脆弱である可能性が示唆された.
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