神経伝達物質であるグルタミン酸は、シナプス形成や記憶学習、さらには神経細胞死などの多彩な機能に関与する。δ2受容体は、アミノ酸配列からは「グルタミン酸」受容体に分類され、小脳において、平行線維がプルキンエ細胞と形成するシナプス後膜に特異的に発現しており、機能的なシナプス可塑性と形態的なシナプス再形成の2つの過程を制御する。しかし、δ2受容体のリガンドが不明であるために、δ2受容体を介する信号伝達経路の解明は遅れている。平成16年度はδ2受容体のリガンド結合機構について検討を加えた。グルタミン酸受容体ファミリーにおけるリガンド結合部位には、細菌の細胞膜周辺アミノ酸結合蛋白に遡って、進化的に非常によく保存されているアミノ酸残基が存在し、これらのアミノ酸残基を変異させると、何れのアミノ酸結合蛋白質においてもリガンドと結合できなくなる。δ2受容体においてもこのアミノ酸残基は保存されているので、もしδ2受容体がグルタミン酸などのアミノ酸系リガンドと結合して活性化されるならば、この残基を変異させるとδ2受容体の機能は阻害されると予想された。そこで、変異δ2受容体をプルキンエ細胞で特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成し、δ2受容体欠損マウスと交配させ、得られたマウスの表現型(小脳失調症状・平行線維シナプス形成不全・LTD障害)を形態学的・電気生理学的に検討した。驚くべきことに、アミノ酸系リガンド結合に必須な残基を変異させたδ2受容体は、正常δ2受容体と同様に、δ2受容体欠損マウスの表現型を100%回復させることが分かった。この結果は、δ2受容体の活性化には、アミノ酸系リガンドの結合は必要でないことを強く示唆する。
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