研究概要 |
本年度は,血栓の形成から崩壊に至る一連のプロセスを観察するための実験システムと,これらのプロセスをコンピュータシミュレーションで再現して解析するための計算モデルの基盤を構築した.得られた成果は下記のとおりである. 1.一次血栓形成の粒子モデルの構築 血しょう流れ下での血小板の凝集,変形および崩壊を表す粒子モデルを構築した.血しょうおよび血小板はすべて粒子で表現し,MPS法に基づいて両者の流れを表現した.血小板には,血管壁の損傷部に確率的に接触する力,および血小板同士が吸着する力をバネモデルで与え,これをMPS法に組み込んで血栓の形成および崩壊過程を表すことができるようにした. 2.粒子法による一次血栓形成のシミュレーション 上記粒子モデルを用いて,2次元平行平板流路において,損傷した血管壁に血小板が付着し,一次血栓が形成されていく様子をコンピュータシミュレーションで再現した.その結果,血しょうの流速が血栓の大きさや崩壊に影響を与えることが示され,血栓形成過程には流体力学的な因子が大きく関わることが明らかとなった. 3.血栓形成過程観察のためのマイクロPIV計測システムの構築 ディスク式マルチスキャン方式と高速度カメラを組み合わせた共焦点レーザー顕微鏡システムにより,運動する蛍光微粒子のイメージ画像を取得して,微粒子の流速分布を計測するマイクロPIV装置を構築した.さらに,対物レンズをピエゾアクチュエータによりz軸方向に駆動させる装置を組み合わせ,3次元空間における速度分布を計測できるようにした. 4.マイクロPIV計測システムの検証 矩形流路内の速度分布を構築したマイクロPIVシステムで計測し,十分な精度で速度分布が計測されることを確認した.また,内皮細胞を介して細胞表面上の蛍光微粒子の運動を観察し,その速度分布を計測できることを確認した.
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