研究課題/領域番号 |
16201023
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 教授 (70177640)
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研究分担者 |
白木 將 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助手 (80342799)
金 有洙 独立行政法人理化学研究所, 川合表面化学研究室, 研究員 (50373296)
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キーワード | 単一分子 / STM / 振動分光 / 非弾性トンネリング |
研究概要 |
本年度は単一分子への電子注入とそれに伴う素励起のメカニズムについて、以下の結果を得た。STM-IETSの機構解明を目的として、Pd(110)表面に吸着したcis-2-butenne分子を対象として、STM-IETSの測定と、分子の表面でのホッピングをモニターし、トンネル電子の加速エネルギーとの相関をとることにより、非弾性過程における分子の振動励起に関する情報を得た。後段の手法はアクションスペクトルと呼ばれ、吸着分子系の振動励起を引き金とする分子の動的挙動から、STM探針から分子に注入された電子の加速エネルギーと励起された振動モードの関係を明らかすることができる。これらの測定の結果、電子が吸着分子電子系のLUMOに注入されると、瞬間的に負イオン状態に励起され、その後電子状態が基底状態に緩和した後も、振動状態は励起された状態で残るために、LUMOの電子状態と同じ対称性を持つ振動モードが励起されることが明らかとなった。即ち、アクションスペクトルでは、C-H伸縮モード、C-H変角モード、C-C伸縮モードおよび、基板-分子間の束縛並進モードの励起が確認された。一方、STM-IETS(非弾性トンネルスペクトル)には、基板と分子間の束縛並進モードおよびC-H伸縮振動モードのみが強く観測された。アクションスペクトルで確認された振動モードの内STM-IETSで観測されなかったモードについては、非弾性トンネル過程のチャネルが開くと、弾性トンネル過程の確率が減少し、双方が相殺する結果コンダクタンス変化が検出限界以下となったと考えられた。本研究の結果、アクションスペクトルにも、吸着に強く関与するC=C振動モードの励起は観測されず、振動励起モードの寿命が極短い揚合には、分子運動を引き起こす以前に励起状態が緩和し、分子の運動には反映されないことが示唆された。
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