本研究は、以下の2つの目的をもっている。 (1)1分子蛍光を観察して、1分子(運動・反応)を追跡するための、究極感度をもつカメラシステムを開発する。 (2)このカメラシステムを用いて、細胞膜のナノラフト領域の形成と分解の機構、ナノラフトのシグナル伝達プラットフォームとしての作動機構を1分子レベルで解明する。 本年度は-20℃まで冷却できる冷却装置を組み込んだインテンシファイアーとカメラを作った(ロスがないようにファイバーカップルする)。このときイメージインテンシファイアーのゲインを最大まで上げても、画面上でのショットノイズが1ビデオフレームあたり数個にできた。 カメラ開発と並行して、さらに、開発したカメラシステムを用いて、細胞膜のナノラフト領域の、(1)形成と分解の機構、(2)シグナル伝達プラットフォームとしての作動機構、を1分子レベルで検討した。具体的には、CD59のリガンドを加えて誘導される短寿命シグナル伝達ラフトの形成機構を検討した。新たに開発したカメラを用い、異種分子の同時1分子観察、1分子FRETなどの1分子ナノバイオロジーの方法を駆使して、(1)ナノラフト領域とシグナルナノ集合体へのシグナル分子のリクルート時間(滞在時間)の1分子計測、(2)シグナル分子の活性化時間の1分子計測、(3)ナノラフト領域とシグナルナノ集合体の寿命の1分子計測を行った。時間分解能5ミリ秒を達成し、これらの時間がはじめて正確に計測できた。これによって、シグナルの量子化のみならず、シグナル伝達の素過程の作動機構(分子間相互作用の仕方)の直接的な解明が進みつつある。
|