研究概要 |
本年度は、遷移金属原子Mを内包するSiクラスターMSi12の理論的解析と形成実験を平行して進め、次の結果を得た。 1.昨年度までにイオントラップ中のMイオンとモノシラン分子の反応により、MSi12クラスターを形成し、Si表面上にクラスター形状を保持したまま付着させることに成功している。今年度は、より効率的に多量のMSinクラスターを形成するために、Si表面上での反応を試みた。Si(111)7×7表面上にMoを低被覆率で付着させシランガスに暴露すると、Mo原子とシラン分子の反応が生じて一定の大きさのMoSinHxクラスターが形成されること、およびその後の熱処理により水素を脱離させてMoSinクラスターを形成できることを、走査トンネル顕微鏡(STM)による解析で明らかにした。この反応は、クラスターが一定の大きさに到達したときに自動停止するので、構造の定まったナノ構造の形成に有用である。また、走査トンネルスペクトル解析により、MoSinHxクラスターはエネルギーギャップを有する半導体であることを見出した。Si原子数nの値はまだ特定できていないが、STM像と第一原理計算で求めたクラスター形状との比較によれば、n>5である。 2.全ての5d遷移金属原子M (Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au)について、MSi12クラスターの構造と電子状態を第一原理計算によって系統的に解析した。このクラスターは遷移金属原子Mとそれを取り囲むSi原子ケージとの間の共有結合によって成り立っているが、1)その際だった構造安定性は、SiケージからM原子への電子移動により、18電子則に基づくM原子が電子的に閉殻状態となることに基づく、2)この関係を維持するためにMの原子種によりSiケージに残る電子数が変化し、それに基づいてSiケージの構造が変化することを、明らかにした。
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