昨年度に引き続き、マルチカノニカル法の発展形としてのWang-Landau法を分子動力学(MD)に拡張した新しいWang-Landau MDシミュレーション法の開発を行った。この方法の利点は、従来のマルチカノニカル法における重み因子決定に関する困難を克服し、シミュレーションを行いながら重み因子を自動的に計算出来ることである。そして、この方法による最大の成果は、これまでよりも高速で効率的な構造空間探索が可能になったことである。本年は、改良型Wang-Landau MD法(WLMD)を20残基からなる小さいタンパク質(Trp-Cage)に適用し、従来法のレプリカ交換MD(REMD)シミュレーションと比較して、良好な結果を得た。とくに、(昨年問題になった)熱力学量等の計算において重要な役割を担う状態密度関数の収束性と精度について再検討を行った結果、ゆらぎを抑制しつつ精度を高める改良に成功し、収束性の良い結果が得られるようになった。また、状態密度関数の精度の十分性を具体的に示すため、両シミュレーション法(WLMDとREMD)の長時間計算をサイズの小さいMet-enkephalin(5残基)に対し行った。これらの結果を論文にまとめて投稿中である。さらに、本研究課題はタンパク質の構造予測と密接に関連するため、上記の研究と並行して、二次構造予測、コンタクト数予測などの方法論の開発を行った。その成果を論文にして発表した。
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