研究概要 |
天然神経毒の構造に内在する極性官能基は内因性リガンドの活性配座(水素供与基と水素受容基)に対応して配置されている場合が多い。平成16,17年度に達成した天然神経毒(5,6,11-トリデオキシTTXとカイトセファリン)の全合成を基盤として、本年度は、5,6,11-トリデオキシTTXの同位体標識体の合成、カイトセファリンの効率的な合成経路の開発、及びスクアリン酸含有新規グルタミン酸類縁体の合成を重点におき、次の研究成果を得たので報告する。 1.リジッドな骨格に作用点を固定した天然神経毒物の全合成:テトロドトキシン(TTX)類の全合成研究:5,6,11-トリデオキシTTXの全合成を受けて、その^<13>Cラベル体に着手した。アルデヒド中間体にNa^<13>CNを付加させ、酸処理で5,6,11-トリデオキシTTXの^<13>CNラベル化体を得た。これがTTX生合成の前駆体であるとの推定にたち、フグへの投与実験等について東北大学・山下まり教授との共同研究を開始した。 2.イオンチャンネル型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、カイトセファリンの効率的合成法の開発:カイトセファリンの量的確保によるその神経薬理学的詳細の解明を目的として、効率的な合成プロセスの開発に取り組んだ。その結果、アラニンとプロリン部位を一挙に構築するルートを確立することができた。 3.スクアリン酸(四角酸)含有グルタミン酸、CCG, DCG-IVの開発:スクアリン酸メチル-t-ブチルエステルへの各種の求核剤の付加は、メチルエステル側からおこり、続く酸処理により各種スクアリン酸誘導体を生成する。本年度、チオール基が塩基存在下、速やかに付加し、続く酸処理によりイオウ原子で連結した付加体を与えることを見いだした。この方法をシステインに応用して、スクアリル基がイオウ原子で連結したグルタミン酸類縁体が合成できた。すでにスクアリン酸の炭素及び窒素連結型グルタミン酸類縁体の合成例が報告されているが、イオウ連結型は初めての例であり、神経活性の評価は次年度の課題である。
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