本研究の目的は、EU・NAFTA・MERCOSUR・ASEANにおける経済統合と法制調和の関連性を探究し、東アジアにおける経済統合において、法制調和のあるべき姿を研究することであった。研究の結果得られた知見は、経済統合はかならずしも法制調和を伴うものではないことである。EUは、共同体成立の当初から法制調和による経済統合を目指しており、新規加盟国に対しても、高度の法制調和の義務を課する。これに対して、MERCOSUBは、法制調和を標榜するも、現実には法制調和は停滞している。NAFTAおよびASEANは、経済統合の実現のために法制調和を用いることはない。 市場統合は制度的統合を必ずしも必要とするものではないが、市場統合は貿易取引の増加とともに、直接投資の増加をもたらす。域内経済を活性化させる直接投資を促進するには、インフラストラクチャーとしての経済法整備が必要である。アジア地域においては、投資協定などの二国間条約、世界銀行・アジア開発銀行・UNDPなどの国際機関による法整備支援、各国のODAによる法整備支援、法律情報WEBサイトなどの複数のルートにより、法整備が進められている。しかし、支援機関による法整備競争の結果、ベトナムなどの一部の被支援国においては、法制度のパッチワーク化(ツギハギ化)が進行している。このため、外国人はもとより、自国民ですら法制度の理解に困難を来している。今後は、法制度のパッチワーク化が市場統合にいかなる影響を及ぼすのかを検証することが課題となる。 本研究において解明されたアジアにおける法制調和の状況は、日本における法整備支援の在り方を構想する上で、重要な基礎的資料となる。今後、ASEAN+3を中核として進められるであろう市場統合において、確固たる大陸法の基盤を有する日本・中国・韓国の三カ国が法制調和にいかなる寄与をなしうるかが今後の研究課題となることも明かとなった。
|