研究概要 |
従来の制度設計の理論においては,均衡概念の選択は研究者の自由裁量であった.つまり,人々がどのような行動をとるのかを問うことなく,人々の行動原理をあらかじめ,決めて分析するのである.一方,我々を含む様々な実験研究者は,従来の制度設計の理論による制度が被験者を用いた実験環境では必ずしも効能書き通りに機能しないことを示しつつある.制度設計工学という新たな領域を目指す研究の端緒として,我々は均衡概念に注目し,人々の行動原理をあらかじめ決めるのではなく,ある一定の幅の中での行動を認め,社会目標を達成する方法論を確立しつつある.その一つの手法が,セキュア遂行理論である.経済学の中で最も弱いと考えられているナッシュ均衡による配分とかなり強いと考えられている支配戦略均衡による配分が一致する制度設計の手法を開発した.この両者の均衡概念で社会目標を達成することがセキュア遂行である.セキュア遂行の必要十分条件を明らかにし,どのような社会目標ならセキュア遂行可能なのかを明らかにしつつある. 研究のもう一つの柱である公共財供給の理論と実験では,日本人の被験者を用いた実験を実施し,欧米の実験結果とは異なった結果を得ている.従来の研究では,フリーライドするのが得であるのにもかかわらず,他者と協力する被験者が多い,というのが主流であったが,我々の実験では,同じ被験者がほんのわずかに異なる実験環境で,他者と<協力>したり,他者の足を引っ張ったりしていることを発見している.他者との協力という解釈に疑問を投げかけている. 排出権取引制度の研究においては,複数の制度の中から下流型の取引制度が必ずしもよくないことを発見しつつある. これらの研究は来年度以降に引き継がれていく予定である.
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