研究概要 |
制度設計の理論においては,ナッシュ均衡と支配戦略均衡が一致するというセキュア・インプレメンテーションの理論の完成を目指した.このような強い均衡概念のもとでは,社会選択関数がコンスタントになったり,独裁者が出現したりするものの,そうはならない環境も発見した.現時点では,そのような環境の十分条件を発見しているが,必要・十分条件はまだ見いだしていない. セキュアなメカニズムとセキュアではないメカニズムの実験においては,明らかにセキュアなメカニズムの性能がよいことを確認している.なお,性能のよいメカニズムの特性として,スーパーモジュラリティをあげる研究者(ヤン・チェンなど)がいるが,この分野の次の課題は,スーパーモジュラリティとセキュアリティのどちらが重要なのかを探ることである. 地球温暖化対策としてどのような制度設計が考えられるのかに関し,ミクロ経済学的アプローチ,社会選択アプローチ,ゲーム論的なアプローチ,実験手法によるアプローチなどを同じ土俵にあげ,それらのよい点,悪い点を比較している.これらの成果と共に実験研究で得た成果をもとに,温暖化対策の国内制度設計として,「上流還元型排出権取引制度」を提案している.この制度を炭素税などの他の制度と比較し,その優位性を検証している. オークションに関しては,繰り返しゲームの枠組みの中で,コミュニケーションの役割,モニタリングの役割を理論的に検証している.また,我が国における談合防止の手段として,新たな最低価格の決め方が提案されているが,この制度の理論的検証を開始し,実験のデザインも始めたところである. 制度設計の根幹をなす個々人の行動にかんしては,スパイト行動がどのような環境で起こるのかを確認し始めている.情報が完全である場合,ナッシュ均衡が出現するのではなく,スパイト行動が表れやすことを確認している.
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