研究概要 |
DNA損傷に関与する構成塩基の互変異性化反応を追跡するために,励起波長を固定して選択的励起を行うシステムを,低温マトリックス単離赤外分光システムにNd:YAGレーザー(新規設備)を組み込むことによって実現した。光学系を用いてNd:YAGレーザーから高調波を取り出し,532,355および266mm励起の光反応を可能にした。本システムを用い,核酸塩基のモデル化合物である,2-pyridone,2-pyrimidinone,および2-aminopyridineの光誘起keto-enol互変異性および光誘起amino-imino互変異性反応を詳細に解析した。また,互変異性反応の溶媒依存姓を調べるために,希薄溶液中における核酸塩基の会合と互変異性化を研究した。その結果,非極性溶媒中の2-pyridone,2-pyrimidinoneは,10^<-4>M程度の濃度でketo型の環状会合体として安定に存在し,enol型はほとんど観測されないことがわかった。 DNAの構成塩基は窒素を含む複素環化合物であるので,軟X線領域の放射光の曝露による塩基の直接的な損傷を調べるため,モデル分子として2-アミノ-3-メチルピリジンを対象とし,その窒素および炭素内殻領域でのフラグメンテーションを調べた。その結果,特に窒素内殻イオン化が起こる励起エネルギーにおいて,窒素原子周りでの解離が顕著となる特徴的な反応が観測された。 実験的に得られるDNA損傷の種類を理論的に検証するための計算システムの構築を進めた。核酸塩基の互変異性体について,溶媒による安定性の違いを,QM/MM法により求める手法を発展させた。損傷によって生ずる特異的な分子振動数を正確に理論的に予測するための手法を発展させた。
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