研究課題
本研究の目的は、電子線コンプトン散乱で生成する非弾性散乱電子・電離電子・解離イオンの三重同時計測により、分子軌道の3次元的な形を運動量空間波動関数の二乗振幅として観測する手法の確立、および運動量空間という従来とは異なる視点からの電子状態研究の創始である。上記の目的を達成するため、前年度までに開発・整備を終えた三重同時計測装置を用いて、本研究計画最終年度たる本年度は、波動関数形の定量的観測が行える実験条件、すなわち電子衝突ダイナミクスの詳細な研究を進めると共に、水素分子の2sσ_g軌道および2ρσ_u軌道などの定量的観測に挑んだ。その結果、例えば、2sσ_g軌道に対しては位置空間で分子軸方向にローブの伸びた当該軌道が運動量空間では分子軸と垂直方向にローブが伸びるbond directional principleを、2ρσ_u軌道に対しては分子軸に平行および垂直方向にそれぞれローブをもつρ型軌道の特徴的な形を精度よく観測することに成功した。現在、これらの成果を数報の論文として発表すべく、投稿準備中である。以上のように、本研究により、従来は"空間平均した"電子運動量分布と理論計算との比較を通じて間接的に探っていた分子軌道の立体的な形を直接的に3次元イメージングすることが可能となった。すなわち、本研究計画を成功裏に終了することができた。分子軌道はいまや物質科学から生命科学に亘る自然科学の広範な分野で基盤的概念の一つであること、さらに理論計算を通じてしか窺い知ることのできなかった現状を考え合わせると、本研究の成果の重要性と波及効果は計り知れないほど大きいと考えられる。
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