研究概要 |
触媒的不斉合成の研究を行うとき不斉配位子の設計・合成が重要課題となる.後周期遷移金属錯体を触媒とする不斉反応には,リン原子や窒素原子を金属への配位点とするものが数多く考案され用いられてきた.軸不斉ビナフチル骨格をもつbinapに代表されるキラルビスホスフィンをはじめとしてオキサゾリン骨格を含む窒素配位子など毎年50例以上の不斉配位子が報告され続けている.中にはこれまでの配位子とは異なるユニークな構造をもち新しい機能を示すものもあるが,大部分は従来の不斉配位子の延長上にあり,新規性に乏しい.本研究では全く前例のない新規な不斉配位子としてキラルな構造をもつジエンを初めて合成した.基本骨格として,ビシクロ[2.2.1]ヘプタジエン,ビシクロ[2.2.2]オクタジエン,およびビシクロ[3.3.1]ノナジエン,また立体環境を左右するジエン上の置換基としてフェニル基,ベンジル基をもつものである.またX線結晶構造解析により明らかとなったこれらのキラルジエンを配位子とするロジウム錯体の構造から,ジエン上の置換基が不斉誘導に効果的な立体環境を形成することが示された.キラルジエン-ロジウム錯体は,α,β-不飽和ケトンなど電子不足オレフィンへのアリールボロン酸類の不斉共役付加反応やイミンの不斉アリール化反応をはじめとするいくつかのロジウム触媒不斉反応の良好な不斉触媒となることを見出した.このキラルジエン配位子の使用により,従来の不斉ビスホスフィン配位子を用いた場合と比べて立体選択性だけでなく触媒活性も高くなることが明らかになった.このようにキラルジエン配位子の発明により,われわれは触媒的不斉合成分野に新しい研究領域を切り開くことに成功した.このキラルジエン配位子はロジウムばかりではなく他の遷移金属触媒との組み合わせも可能であり,様々な触媒反応に今後応用されるものと期待される.
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