研究課題
基盤研究(A)
本研究では、水溶液あるいは固体状態の高分子近傍の水構造を、振動分光法を用いて明らかにした。水溶液系での、モノマー一残基当たりの水素結合の欠損数(N_<corr>)は、カルボキシベタインのような双性イオン型では常に小さく、また両性高分子では正負電荷数がほぼ拮抗しているときに最小を示した。また、非水溶性の単量体をコモノマーとした固体膜では、双性イオン型、あるいは正負電荷数が拮抗している両性高分子では、O-H伸縮振動帯の形状が自由水に類似しており、水溶液系と同様の傾向を示すことが判明した。さらに、真空乾燥と重水との接触を繰り返し、一次水和水の寄与を排除した3000〜3700cm^<-1>のスペクトルをバックグラウンドとして、膜の極近傍の水のO-H伸縮振動を見たところ、ベタイン型の材料では自由水のスペクトルに類似していることが判明した。原子間力顕微鏡観察では、乾燥状態と、湿潤状態で、膜表面の構造に変化があることが示唆された。また、これらの高分子薄膜に対する血小板や線維芽細胞の付着数が、非常に少ないことがわかった。これらの結果は、我々が従来から主張している、「水に対して優しい材料は、体に対しても優しい」という仮説を裏付けるものである。また、水の水素結合ネットワーク構造に対する影響小さく、かつ優れた生体適合性が見出されているカルボキシメチルベタインポリマーを表面に集積させた金ナノ粒子について、局在表面プラズモン共鳴法によりタンパク質分子の吸着を見たところ、タンパク質の荷電に関わらす非常に少ないことが見出された。高分子近傍の水構造への擾乱の少なさが、材料表面へのタンパク吸着を抑制し、補体活性化の抑制、血小板吸着の低下につながっていることが確認された。
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