液晶性有機半導体のための材料設計の指針を得るため、液晶コア部及び側鎖アルキル置換基の化学構造に注目して、Biphenyl誘導体、Benzothiazole誘導体、Phenylpyridine誘導体を合成し、その電荷輸送特性をTime of Flight法による過渡光電流の測定により評価した。その結果、Sm液晶では小さな芳香族π-電子共役系をもつBiphenyl誘導体においても-10^<-3>cm^2/Vsを超える移動度をもつこと、また、Benzothiazole誘導体について、従来、行なわれていた相の同定と移動度の評価について再検討するともに、これまで報告のなかった電子の伝導を観測した。Phenylpyridine誘導体では精製が不十分であるため、現在までのところ最終的な結果を得るに至っていない。 一方、円盤状液晶物質であるphthalocyanine誘導体について、精製を十分に行なった試料の電荷輸送特性を検討した結果、従来、イオン伝導と考えられていた等方相においても10^<-3>cm^2/Vsを超える電子性の両極性伝導が観測されることを明らかにし、等方相におけるイオン伝導の起源が微量不純物による可能性が高いことを示唆する結果を得た。 さらに、液晶性、強誘電性、有機半導体としての性質をあわせもつphenylpyrimidine誘導体の電荷輸送特性について検討し、強誘電性の発現と電荷輸送特性を確認し、電場による移動度、電荷注入特性のスイッチング現象を観測した。 電極/液晶物質界面の電気特性を種々の電極を用いた電流-電圧特性の温度依存性から検討し、電荷注入が基本的にSchottky型の注入障壁によって律速されており、その障壁には固体系と同様に真空準位のシフトが寄与すること、さらに、チオールを用いたSAMによる電極材料の修飾による電荷注入特性の効果について検討した結果、SAMによる電極表面の修飾は電荷注入を促進することを確認し、その効果がSAM膜の電子準位を介した逐次的な注入によってもたらされるものであることを示した。
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